AHAガイドライン2010 ファーストエイド 速報

『AHAガイドライン2010の新しいファーストエイド』



2010年10月18日に世界の救急蘇生法(CPR/BLS/ACLS/PALS)のやり方が一新されました。新しい心肺蘇生法ガイドライン2010が発表されたのです。

それと合せて、アメリカ心臓協会AHAとアメリカ赤十字ARCから、新しいファーストエイド(応急処置)のガイドラインも5年ぶりに改定されました。

ファーストエイドガイドライン2010(英語)は、こちらのページの一番下からダウンロードできます(PDF:無料)



日本では、あまりなじみのないファーストエイドの世界ですが、BLS横浜ではBLS以上にその必要性を感じ、追求してきました。

現在、日本国内でAHAの『ファミリー&フレンズ・ファーストエイドforチルドレン・プログラム』を開講しているのは私達だけです。

また今回のAHAガイドライン2010ファーストエイド部門の筆者のひとりである Jeffrey L. Pellegrino から直接教えを受け、G2010対応の American Red Cross / Wilderness & Remote First Aid Course のインストラクターになるための訓練を受けたのも日本で唯一私たちだけです。

そんな日本でのファーストエイドのパイオニアとしての自覚を持って、新しいファーストエイドについて、解説をしていこうと思います。




AHAガイドライン2010のファーストエイド概観

2010年10月18日

2010年10月18日、待ちに待ったファーストエイドの国際コンセンサスが公開され、同時にその国際コンセンサスに準拠したAHAのガイドライン2010:ファーストエイドが公開されました。

公開されてまだ間もないこともあり、しっかり読み込んだわけではありませんが、ざっと目を通した範囲でいくつか興味深い点があったので独自の視点で解説したいと思います。





アスピリン投与

これまでファーストエイドでは、アナフィラキシーへのエピネフリン自己注射を除いて、薬剤の使用に関して明確に言及されることはなかったと記憶しています。

ところが今回のAHAガイドライン2010では、急性冠症候群を疑うような胸部不快感を呈する傷病者には、アスピリンアレルギーの禁忌がないという条件下でアスピリンの投与を推奨しています。

これは従来ACLSの範疇だった手技であり、FAに開放されたことは興味深いです。ACLSとファーストエイド(FA)がシームレスに繋がった結果であり、今回のFAのガイドラインによるメリットの一つの事例と考えます。

ただし、国際コンセンサスではファーストエイド・プロバイダーが傷病者の急性冠症候群の兆候、およびアスピリン・アレルギーの有無をきちんと把握できるかどうかに関して慎重な立場を取っており、このスタンスもきわめてリーゾナブルです。



エピペン(エピネフリン自己注射器)

日本国内でもエピペンの知名度は拡大しつつあります。

2008年に文部科学省から学校教諭の特定行為として、エピネフリン(アドレナリン)自己注射器(エピペン)を所有している児童・生徒の代わりの注射が許容されたことが背景にあると考えられます。

この点に関して国際コンセンサスでは、十分な教育を受けていないFAプロバイダーでは、アナフィラキシーの兆候を認識できないとした上で、早急なEMSへの通報を重視する立場が表明されています。

アナフィラキシーを発症しエピネフリンを投与された群の20%で10時間以内に再度アナフィラキシーが発症していることを例にとり、仮にエピペンにより症状が軽快したように見えてもEMSへの通報による、医療機関の受診を強く推奨しています。



止血法

止血はファーストエイドの基本的手技です。

現在においては直接圧迫止血のみが推奨されています、AHA-G2010では伸縮性包帯による圧迫法も推奨されると変更されました。

特に大きなケガの場合は有効と考えられます、伸縮包帯による過度な圧迫は抹消側への血流を阻害し、傷害を誘発する可能性があることに注意が必要でしょう。

圧迫部位には必ず指が一本入る程度の余裕を持たせることと、定期的に抹消の血流、感覚、運動を評価する必要があります。

一般にはまったく推奨されませんが、特殊なギアとして止血帯(ターニケット)についても言及されています。

大規模な災害や戦場で十分訓練されたファーストエイド・プロバイダーによってのみ使用が許容されるということを最初に申し上げておきますが、その有効性は疑問の余地がありません。

ただし、バンダナなど即席で作られたターニケットではなく、ミリタリー用に市販されているいくつかの製品のみにおいて有効性が確認されています。

下手に使うと、神経を痛めたり、壊疽、ショック、場合によっては傷病者を死亡させてしまったりするため、くどいようですが通常のファーストエイド・プロバイダーには無用の長物です。



クラゲ刺傷

新たに追加されたクラゲへの対処法は、なんとなくファーストエイドというと山を思い出すノスタルジーを打ち砕くものとして新鮮でした。

クラゲは刺胞と刺胞からの毒の双方に対しての対処が必要。まずビネガー(酢:5%程度の酢酸)によって患部を30秒以上洗浄することにより刺胞の毒を不活性化させ、その上で患部を熱めの温水に20分程度浸すことによって刺胞による刺激を緩和するファーストエイドが推奨されています。「ビネガー」というところが敷居が低くて、いかにも「ファーストエイド」という感じで好感が持てます。





ざっとファーストエイドに関して、AHAガイドライン2010と国際コンセンサス2010の内容を紹介してきました。

従来から大幅に変更された点はそれほど多くありませんが、いずれにしてもファーストエイドがガイドライン化されたことの意義は大きく、日本国内においてもファーストエイド教育、それもシミュレーションを取り入れた実践的な教育が広まってくる可能性が高いのではないでしょうか。