AHAガイドライン2010の新しい心肺蘇生法(BLS/CPR)の変更ポイント

『ガイドライン2010のBLS/CPR 主な変更点』



作成:2010年10月19日
更新:2010年10月21日



2010年10月18日に情報解禁になった新しい心肺蘇生法国際コンセンサス2010。

今日、19日になって日本蘇生協議会JRC版ガイドライン2010も公開され、アメリカ心臓協会AHA版と共に日本に直接影響する2大ガイドラインが出そろいました。

結果的に日本版JRCガイドラインとAHA版ガイドラインで、心配したほどの大きな差はなく、少なくとも一次救命処置BLSを実施する上では、AHAとかJRCとか区別せずに、新ガイドラインに移行できそうです。

今回大きく変った点を、主にAHA版ガイドラインを中心に取り上げていきたいと思います。


なお、このページは未完成です。筆者の理解度の深まりに応じて随時、追加・修正を加えていきます。

蘇生ガイドライン2010に関心のある方は、ブックマークの上、常に最新版をチェックいただけますようお願いいたします。




1.「見て、聞いて、感じて」の廃止

これまで呼吸確認のために気道確保した上で「見て、聞いて、感じて」と3つのポイントで「いつも通りの息をしているか」を確認していました。

しかし、AHAガイドライン2010ではこれが削除されました。(注:日本版では慣れた医療従事者は従来通り「気道確保+見て聞いて感じて」としています)

「呼吸をしていないか、死戦期呼吸のみ」であればCPRを行うとしており、どうやってそれを確認するかについては「呼吸の確認は心停止の確認の一部として手短に行われる」としか書かれておらず、具体的な方法は不明確です。

具体的な「見て、聞いて、感じて」ではない呼吸確認の方法は、この後に続くAHA BLSコース教材の中で明示されるはずです。

この点、日本版ガイドラインの中ではもう少しわかりやすく書かれています。

「市民救助者が呼吸の有無を確認するときには気道確保を行う必要はない。その代わりに胸と腹部の動きの観察に集中する。ただし、呼吸の確認に10秒以上かけないようにする」

日本版のアルゴリズムでは、反応の確認とは別に呼吸確認を行うボックスを設けていますが、AHAのアルゴリズム図には、反応確認と呼吸確認がひとつのボックスにまとまっています。

AHAの場合は、反応確認をする際に一緒に胸の動きを注視する、といった形になるのかもしれません。

市民救助者の場合でも医療従事者の場合でも、いずれにしても強調されているのは、「死戦期呼吸を見分け、不適切な呼吸と判断できる」ことです。そのため、G2010のCPR教育の中では、映像教材等を使った死線期呼吸の説明が必須になりそうです。





2.手順の変更 A-B-C → C-A-B

これまでの心肺蘇生法は次のような流れでした。

反応の確認、応援とAED要請、気道確保(Airway)、呼吸確認(見て聞いて感じて)、人工呼吸(Breathing)、(脈拍触知:医療者のみ)、胸骨圧迫(Compression/Circulation)開始

主要な部分を取り出すと、

Airway → Breathing → Circulation

A-B-Cでした。

これがガイドライン2010では、C-A-Bに変ります。

Circulation → Airway → Breathing

つまり、肩を叩きながら「大丈夫ですか!」と声をかけて反応がなければ、通報。

その後、気道確保は必要ありません。

(おそらく)傷病者に触れることなく胸の動きを見て「呼吸をしていないか、死戦期呼吸のみ」であれば胸骨圧迫を開始します。

救急車が来るまで胸骨圧迫だけのハンズ・オンリーCPRを続けるか、訓練を受けていて人工呼吸ができる状況であれば、30回の胸骨圧迫ののち、頭部後屈あご先挙上で気道確保して、人工呼吸を2回行います。あとは、ガイドライン2005と同じで、30:2 の胸骨圧迫と人工呼吸をAEDが到着するか救急隊などに引き継ぐまで続けます。

この根本的な手順の変更のために、これまでのガイドライン2005でトレーニングを積んだ人全員の再教育が必要となりますが、それに見合うだけの有益性が得られるはず、とAHAのガイドラインでは言っています。

このC-A-Bへの変更のメリットは、発見から胸骨圧迫を始めるまでのタイムラグが極めて短いこと。

これまでのガイドラインでも感染防護具がない場合は人工呼吸の省略は許容されていましたが、実は心理的には気道確保(頭部後屈あご先挙上)だけでも大きな障害となっていました。

皆さんも救命講習で経験があるかも知れませんが、受講者同士で床に寝て気道確保の練習をするとき、赤の他人の頭部や額に手を置くことに大きな抵抗を感じませんでしたか?(脂ぎってない? 化粧が、、、etc. 参考まで、BLS横浜のファーストエイド講習では受講者同士の実習では、必ず手袋を装着してもらっています)

このことを考えると、気道確保をしなくて良いとした場合のメリットを実感できるのではないでしょうか?

C-A-Bになると、最低限触れなくてはいけないのは、傷病者に触れるのは反応確認の時の肩と、胸骨圧迫のための胸部のみとなり、心的な障壁は相当小さくなるはずです。





3.より強く、より速く 成人の胸骨圧迫

胸骨圧迫の手技に関しては大きな変更はありませんが、質の高いCPRということで今以上に「強く、速く」が強調されています。

  • 成人に対する圧迫の深さは2インチ(5cm以上)以上とする(約3〜5cmから変更)
  • 圧迫のテンポを100回/分以上とする(約100回/分から変更)

強く押したら骨が折れるんじゃないか、など、圧迫は弱くなる心理的側面への対策として、「以上」という勧告はいいですね。

また、圧迫のテンポも100回「以上」となって、より現実に即した形になりました。

ほとんどの日本人は速くなりすぎで120回くらいの人が多いのが現状でしたから。

ガイドライン2005の時から、遅いと良くないというエビデンスはあっても、速くて悪いことはないという点は知られていました。実はAHAのBLSスキルチェックシートは遅すぎるとNGですが、速い分にはどんなに速くても合格、という仕組みになっていました。今回のこの勧告で、他団体の講習でも受講者が窮屈な思いをすることは少しは減るかも知れません。

乳児/小児に対する圧迫の深さは、胸部の前後経の1/3(乳児は4cm、小児は5cm)以上と微妙に変更になっています。





4.乳児にもAEDが使えることになった

これまで、十分なデータがなく「推奨も否定もしない」というスタンスだった一歳未満の乳児に対するAEDがOKとなりました。

出力設定を調整できる手動式除細動器を使うのが基本ですが、それがすぐに手配できない場合は、小児用出力減衰パッドでのAED使用が勧告されています。さらに小児用パッドがない場合は、成人用AEDを乳児に使用しても良いことが新たに書かれています。



(以下、今後も追記予定)